遠くて近しい君のレビュー

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 ※※※ 「いっそパソコン買わないの、お前」  あくびを噛み殺しながら、平治は友人に返答する。 「買いたいけど……高くてなぁ」  学校でネットワークの話をすれば、決まって友人はそう話す。  ゲーム機による接続は確かに通信速度は遅く、できることも限られている。  そしてパソコンは、数ヶ月分のバイト代をつぎ込めば、買えないこともない値段。  ただし、月々の電話代や、各種パーツを細々と買い替えることを考えると、身入りの少ない高校生には厳しい。 「勉強と引き換えに、テレホーダイを許してもらってる今が、ちょうどいいかなって」 「今に破綻するよな、その生活」  友人の言葉に、眉をよせる平治。  顔を見てみろよ、と指をさされる。 「鏡、あるか?」  平治の声にこたえて、差し出された鏡。 「クマ、すごいよ」  ……ただそれは、友人のものではない。  細い指先の先には、紅いマニキュアと、コンパクトの手鏡。 「出かける前にちゃんとしなよ」  話しかけてきたのは、制服を着崩した茶髪の少女。 「……確かに、黒いな」  鏡に映る自分を見て、一言だけ平治が呟くと。 「そっ。しっかりしなよね」  それだけを言ってコンパクトを閉じ、彼女は女子の輪の中へ戻っていく。  マキ~、と、輪の中の子に呼ばれているのが聞こえる。 「……あんな子だったっけ、夢園さん」 「デビューってやつじゃないのか」  同じ中学だった友人にも、彼女の変貌ぶりは異彩に見えるようだ。  答える平治も、未だ、慣れているとはいえない。  ――彼女は、夢園 真希(ゆめぞの まき)。  平治と同じ高校二年生で、かつ、隣近所に住む幼なじみだ。 (中学までは、俺と同じような感じだったのに)  やや着崩した制服にルーズソックス、校則違反にならない程度の茶髪。  いわゆる高校デビューをした幼なじみは、今までの関係を忘れるかのように、新しいコミュニティへと入っていった。  ここ一年ほどは疎遠になり、遊ぶこともなくなってしまっている。  ――あの頃は、同じ映画を楽しんだり、遊びにも行ったりしてたのにな。  女は一瞬で変化する、とは、なんの映画の言葉だったか。  変われない自分にため息を吐きながらも、平治の興味は、新しく開通したネットワークのことばかりだった。
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