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※※※
明日からレンタル開始だという、ある映画のタイトル。
"新作"のコーナーに、平治が立ちよった時だった。
「あっ!?」
「うん?」
手を伸ばしたビデオテープに、手が重なる。
視線を向ければ、同い年くらいの女の子。
すぐさま顔をそむけた彼女に、平治は聞いてしまう。
「お前、真希か?」
帽子と地味な服をして、メイクも最小限。
おまけに黒髪のウィッグまで被って、いつもとはまるで別人の姿。
(……懐かしいな)
けれど平治は、今の姿にこそ、慣れた幼なじみの姿を感じてしまう。
「お、親! 親がこの映画、借りてきてくれって言われてっ!」
話題をそらすかのように、手元のビデオテープを指さす真希。
「……お前んちの親、こんなバイオレンスな映画観るのか?」
指さされた映画は、公開前からアクションとバイオレンスを売りにしていた、過激なもの。
平治が覚えている真希の両親は、昔よく遊びに行ってた頃、ミュージカル映画や恋愛ドラマばかり勧めてきたのに。
「年をとって、趣味も変わったんでしょ」
真希はまたビデオテープを棚からとろうとして、あることに気づく。
「最後……」
レンタルには、入荷された二本の内の一本しか残っていない。
「……じゃあ、譲るよ」
そう言う平治に、真希は眼を見開いて問い返す。
「で、でも、平治も観たいんじゃ」
「……映画とか、今も見てるの」
問いかけには答えず、平治は、別のことを尋ねた。
(――親の代わりなんて、へたな嘘、されちゃなぁ)
今みたいな、観れないかもという不安顔、久しく見ていなかったから。
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