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99点の実力と1点の謙遜
台本を持つ手が震えた。自分でマーカーを引いた部分、書き込んだ文字が全く頭に入ってこない。どうすればいいんだろう。全くわからない。検討もつかない。今自分のやれる事をするしかない。無我夢中で演じてみせる。
遠くの方でブースの扉が開く音がした。
「はい、お疲れ様でした」
ほとんど顔があげられなかった。上手くセリフは言えていたのだろうか、感情を上手く表現できていたのだろうか、キャラクターの口の動きと不自然なく合わせられていたのかどうか。不安が募る。心臓が、重い。
「藤くん」
「は、はい」
廊下で声をかけられた。声の方向を向くと、先ほど隣だった女性の先輩であった。
「あのさ、」
「…何でしょうか」
「今日、どうしたの?」
「え」
「調子悪そうだったから、心配で。まぁ、監督はいいねって褒めてたけど」
その言葉に乾いた笑いが浮かんだ。
「心配には及びませんよ、」
「そっか」
「僕、いつも何も考えてないので」
「それは嘘だね」
間髪入れずに返答され、返す言葉を失った。先輩はお疲れ様、と一言残し、自分の肩を台本で一度叩くと控室に戻っていった。
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