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前科一犯は住所不定
出所日。
特に騒ぎもなく静かな朝で、高い塀を10年ぶりに通り抜ける。
「お疲れ様でした。もう、戻って来ないで下さいね」
これまで厳つい顔をしていた刑務官達が、穏やかに自分へと微笑みかけていく。
なんだかクランクアップみたいだ。
ひとまずタクシーを拾って家に行き、今後の方針でも考えようかと窓の外を眺める。服も、髪型も、携帯電話の普及も異世界じみていて、なんだか中途半端な近未来映画の撮影でもしているような気分になる。
「この辺で良いですか?」
見覚えがあるようで無い場所に辿り着いたので、運賃を払ってタクシーを降りた。
道順は覚えている。見覚えのある建物もある。けれど、かつての住居は駐車場になっていて、さすがに参ってしまった。きっと事件の後に、親類の誰かが売り払ったのだろう。
「参ったなぁ」
さて、今夜はどこに泊まろう。ホテルで一泊するのも良いかもしれない。最近は色々なタイプの宿泊施設もあるみたいだし。
「あ、でも住所は必要なのか」
確かホテルに泊まる時、電話番号や住所の確認をされていた気がする。そうだ、思い出した。名前と住所と電話番号、その3つはどうしても必要になるのだ。
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