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少し吐き気がしてきたので、予定よりも早めに降りた。知らない駅だが静かで良い。そうだ、ここで新しい家を探そう。
切符を通して地下鉄の階段を上り、青い空を見上げて深呼吸する。
排ガスの匂いが肺に充満し、ついゲホゲホと咳き込んでしまった。
「家が欲しいんですけど、詳しく教えて頂けますか?」
目に付いた不動産屋に入り、とりあえず聞いてみる。奥から中年と老齢の間のような男性がメガネを弄りつつ出てきて、ヘコヘコと腰を低めに受付へやってきた。涼しい頭に反して本人は暑そうで、腹にも頭にも、油がこってり乗っている。ぷるんと肥えた体を揺らし、男は手慣れた様子で笑顔を作った。
「本日は、どのようなお住まいをお探しですか?」
「特に考えてないです」
「ご予算は?」
「7億は蓄えがあるので、それ以下で?」
「ん?」
「どうかしました?」
「ああ、すみません……お客様のお顔が良かったもので、つい。モデルさんか何かかと」
「昔やってましたよ」
「……お名前こちらによろしいですか?」
「はい」
低い椅子に座り低いカウンターに向かい、差し出された書類にひとまず名前を書き入れる。
仁比山勝一
フリガナにも『ニイヤマ ショウイチ』と書き入れ生年月日を記入していると、明らかに男の見る目が変わった。
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