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都築がバタバタと扉を開け閉めし、個室と広間とを往復する。
そして大きなペットボトルともう一つコップを持ってきて、トクトクとこちらのコップへと新しい緑茶が注がれた。
「先にご予算を聞いておいて良かった。社長からオーケーが出ました」
「足りませんか?」
「いえ、充分です。仁比山さん、家を買う前にいくつか……多分、もっと根本的なお話をさせて頂きます」
「はい」
「あなたは、普通のお家には住めません」
はて、どうしてだろう。
これらの雑誌ではどれも「安くて早くて誰でも住める」そんな家ばかり紹介されているのに。
「仁比山さんがね、有名過ぎるんです。ご自身の世間からの評判をご存知ですか?」
「前科一犯?」
「それも、殺人です」
都築は両手を組み合わせ、緊張を誤魔化すためかこちらを強く見つめている。
「殺人犯にね、家を貸そうと思える人はほとんどいないんです。近所に住んで欲しいとも思わない。だから仁比山さんには、お名前や素性をなるべく隠しての入居が前提条件となります」
「……私、服役しましたよ?」
「それは、周囲に住む人には関係がないんです」
「模範囚なんですけど」
「それも、関係ないんです」
「…………」
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