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真正面から問われて、わたしは言葉に詰まった。自分でもその理由がよく分からなかったから。
でも、こうしてマリィの淡い、空の色の瞳を見ていると、自然と声が漏れた。
「『昼は翼の時間、夜はホウキの時間』……昔から、魔女の時間は夜と決まっていたの。真夜中の魔女集会に参加できるようになって初めて、魔女は一人前になる。でも、わたしはそうじゃない」
マリィは静かに耳を傾けている。
「気づいてるでしょ? わたしは異端の魔女……夜ではなく昼にしか力を使えない。だから掟によって、夜にホウキに乗れないわたしは一人前になれない。一生、半人前のまま過ごすの」
そしてわたしは初めて、おばあちゃん以外の人に心の中で渦巻く声を語った。
「――でも、誰がその掟を決めたの? きっと顔も名前も知らない昔の魔女ね。わたしには一人前の力があるって、わたし自身が知ってる。それなのに大昔の亡霊がわたしの人生を邪魔してるの。それなら、わたしは掟が認めないものを認めてやりたい」
一気にそこまで話して、ふと我に返ると、セラは静かに頷いた。
「だから、私を助けてくれたんだね」
笑顔がすこし寂しそうに見えた気がして、わたしは低く答えた。
「そうよ。……自分勝手で酷いでしょ?」
けれど、そんなことないよ、とセラは首を振り、わたしの手を取った。
「マリィが掟に反抗するの、よく分かるよ。私も同じだったから」
「同じ……?」
「有翼人は昼に飛ぶもので、夜は飛んではいけないって、ずっと言われてきたの。それを聞くたびに、夜じゃないと飛べない私は間違ってるんだって言われてるみたいで辛かった」
セラは微笑んだ。無邪気そうでいて、痛みをこらえているような笑顔だった。その顔がふいに揺らいだ。頬を伝うものをわたしは驚いてぬぐったが、それは後から後から零れて止まってはくれなかった。
――わたしだけじゃないんだ……。
心の中で何かがほどけるような気がした。ずっとわだかまったままの塊がほんの少しだけ軽くなるような、あるいは固い蕾がふくらんで開いていくような、そんな心地よさを感じた。
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