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おばあちゃんはその明け方に戻ってきた。戻るなり寝台のわたしを揺り起こし、言った。
「この土地に有翼人が忍び込んだよ。夜闇に紛れて飛んできたらしい。黒い翼だったから発見が遅れた。おまけに魔法の類を使って姿をくらませたようだし」
おばあちゃんはわたしをじろりと睨みつけ、それで眠気が一瞬で吹き飛んだ。
「マリィ、あの有翼人に姿隠しのお守りをやったのはおまえだね? ……隠しても無駄だよ。あの小娘からは、おまえの魔法の気配がしていた。私には分かったよ。正直にお言い。なぜそんなことをしたね?」
わたしは渋々口を開いた。
「安全に、この土地から脱出して欲しくて……魔女に捕まったら何をされるか分からないし」
「有翼人は撃ち落として構わんということになっている」
「そんな!」
わたしは愕然とした。
「彼女は悪心なんて持っていなかったわ。ただこの土地を通過しているだけよ。どうして撃ち落とすなんて言うの!」
魔女の長ベルディエールは厳しい表情でわたしを見据えた。
「有翼人と魔女はかつて空の覇権をかけて相争った過去がある。数多の犠牲の果てに我々はこの土地を勝ち得、有翼人たちは二度とここに侵入しないと誓いをたてた。通過と口で言っていても、その有翼人が本当に言葉通りにするか分からない。災いの芽は早いうちに摘み取るべきだよ」
「ああ、やめて! わたしの話を聞いて」
わたしはセラを介抱した一部始終を話した。彼女がただ旅をしているだけの、遠方の有翼人らしいことを特に力説した。
おばあちゃんはわたしの話すのをじっと聞いていたが、やがて口にしたのは信じがたい言葉だった。
「おまえが何を言おうと、魔女たちは止まりはしないよ。そのセラという娘を見つけ出し、地に叩き落すだろう。だが、それには幾日かかることやら」
そして魔女の長はわたしに命じた。
「マリィエール、おまえは自分の作った姿隠しの魔法のお守りの位置を探れるはずだ。有翼人の娘がどこに隠れているか、調べて申告するように。幸いに、もう朝になる。お前の魔法も戻ってくる時間だ」
「……セラを殺す手伝いをしろと言うのですか」
「手伝いではない。これは義務だよ、この土地の魔女のね。……それでは任せたよ。私はもう眠るとしよう」
わたしの反論を完璧に無視して、彼女は寝室の扉を閉じてしまった。わたしが何度抗議しても、扉は頑として開かなかった。
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