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夜の翼
昼は翼の時間、夜はホウキの時間――そこにわたしの時間はない。
「それじゃあ、集会に行ってくるよ。今回は一週間くらいかかるだろうね」
おばあちゃんがわたしを振り返って言う。わたしは笑顔を作って行ってらっしゃいと言い、軽く頭を下げる。
視線を落とすと中庭に植えられた無数の草花が目に映る。赤い花のマンドラゴラ、猛毒を含むベラドンナ、ローズマリー、そして砂漠に咲く薔薇。この館に住んだ代々の魔女たちが収集し、育ててきた植物……今はわたしが世話をしている。
中庭に立ち、おばあちゃんはわたしを無言で見ていた。もの言いたげなその表情に気付くと、胃が縮むような気がする。
結局おばあちゃんは何も言わず、ついと身をひるがえしてホウキにまたがり、そのまま軽やかに浮かび上がった。なめらかに中庭上空を一巡すると一瞬静止し、次の瞬間、加速して雲の彼方へ飛び去っていく。
いつもながら鮮やかな爆走だ。
月のない夜空に星が輝き、ふたたび辺りがしんとするまで、わたしは空を見ていた。
わたしの祖母、魔女の長ベルディエールは類いまれな飛翔の才能で知られる、という。魔女の知り合いは多くないので良く分からないけれど、他の魔女の飛び方を見ていると、確かにそうなんだろうなと思う。あれほどの速度と高度で飛ぶものをわたしは他に知らない。
飛ぶことを考えると、胸がずきりと痛む。
――マリィエールにはまだホウキを持たせないの?
かつておばあちゃんが親友と話しているのをこっそり聞いた。そのとき、おばあちゃんは首を振って言ったのだ。
――マリィは魔法の才が乏しい。あの子は飛ぶことはないだろうよ。
――そんな。だってあの子は、魔女の薬をあんなに上手く作るのよ? 才能がないはずないじゃないの。
――薬学や、呪いならば。でも、飛翔は、……駄目だね。
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