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「そういえば、由宇は剣道の試合見るのって初めてなのか?」
改めてそう聞いてきた鷹取に由宇は素直に頷いた。
「うん。深月に色々話を聞いてて、一度見てみたいとは思ってたんだけどね。深月の通う高校にも興味があったし」
「あ、じゃあ、もしかして今日は来年の受験の為の下見を兼ねてるとか?」
「……え?」
一瞬、由宇の顔が強張った。慌てて深月が割って入り、鷹取の早とちりを指摘する。
「違う違う、タカ。ちょっと事情があって高校には行ってないけど、こいつは俺達と同い年だ。受験組じゃない」
「同い年? そうなんだ。絶対年下だと思った」
言いながら鷹取は改めて目の前の由宇をじっくりと観察した。
柔らかそうな髪に大きな瞳。中性的な顔立ちはずいぶんと幼くて、深月や、まして鷹取自身と同い年になど到底見えない。
顔立ちの綺麗さ加減では深月も負けてはいないだろうが、深月はどちらかというと凛とした日本男児の風貌で、由宇はあどけなさの残る美少年といった感じだろうか。
ただ、いずれにしても由宇と深月がどういう知り合いなのかは、鷹取にも皆目見当がつかなかった。
「そう言えばさっき勉強がどうとか言ってたよな。もしかして由宇ってあの天才児の弟の家庭教師なのか?」
自分達と同い年ということは、深月の弟、智秋より一つ年上だ。
由宇が智秋の家庭教師として家に来ていたのであれば、兄である深月とも親交が出来る。今回のように忘れ物を届けるなどのちょっとした用事をお願いしてもおかしくない。
だが、そんな鷹取の推測を否定するように由宇は大きく首を振った。
「違う違う。そんな大層なことはやってないよ。僕の仕事は、どちらかというと家事全般だから」
「……家事? 仕事?」
それはいったいどういうことなのだろう。鷹取の顔つきを見て、由宇は困ったように一瞬深月を見てから、ためらいがちに口を開いた。
「僕は、天野家のハウスキーパーなんだ」
「……ハウス…キーパー……?」
普通の生活をしていては聞くことはない珍しい単語に、今度こそ信じられないといった顔で鷹取は目を丸くして由宇を見た。そして、深月のほうへと顔を向け、本当なのか? と目で訴える。
「……本当のことだ」
「いつから?」
「ちょうど三ヶ月ほどになるかな」
「お前って、そんなお坊ちゃんだったっけ?」
「……違う」
「だったらなんで……あ! そうか、お前んとこ、今両親いないんだ。だから?」
「そういうことだ」
ようやく納得がいったと、鷹取がこれ以上ないくらい大きく頷いた。
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