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***(2)***
「なんだ。今日は由宇が作った夕飯じゃないんだ」
「仕方ないだろ。深月の奴が連れ出しちまったんだから」
「いいなあ……みつ兄。俺も外食したかったー」
「贅沢言うな。黙って食べろ」
時刻は午後七時。
智秋と弟の大地はふだんの半分の量の皿、つまりは二人分しか並んでいない夕食に箸をつけていた。
「あっちは何食べてるのかな?」
「んなのたぶん似たようなもんだよ。ハンバーグとか」
「あーあ、同じハンバーグでも全然違うんだろうなあ。外食だと」
「なに言ってる。最近のファミレスの味なんて、そこらの冷凍食品とどっこいどっこいなんだぞ」
「そんなことないよー」
大地がぷーっとふくれっ面をしてみせる。と、その時、部屋の中に電話のコール音が響いた。
「あれ? 電話?」
大地が箸を置いて振り返る。
深月からはつい30分ほど前に帰るコールがあったばかりだ。こんなに何度もかけてくるとは考え難い。
そんな疑問を頭に浮かべたまま智秋は受話器を持ちあげた。
「はい、天野ですが……え? あ、はい。そうですが……」
電話にでた智秋の口調が、相手が誰かわかった時点で丁寧になった。
ということは、相手は深月でも由宇でもなく、まして智秋や大地の友達ということでもなさそうだ。
では誰からの電話だろうか。
大地がこっそり聞き耳を立てていると、智秋が電話口の相手と二言三言言葉を交わした時点で真っ青になって絶句した。
「……本当ですか? それ。はい、俺は智秋。深月の弟です。それに水澤由宇の緊急連絡先もここで間違いありません。じゃあ今二人の容態は……はい……ええ…それで?」
尋常でない智秋の表情を見て、大地が心配そうに駆け寄った。
「どうしたの? ちい兄」
「…………」
「ちい兄?」
「はい……はい……わかりました」
大地の追及を手で制しながら、智秋はどこかの住所をメモに走り書きしている。大地が覗きこむと、そこに書かれていたのは近くの大学病院の名前だった。
大地が不安げな顔で見上げていると、ようやく電話を終えた智秋が大地に向き直り言いにくそうに口を開いた。
「深月と由宇が、怪我して病院に運ばれた」
やっぱり。想像が当たってしまったと、大地の顔からさっと血の気が引く。
「そ……大丈夫なの?」
「わからん。とりあえずすぐに来てくれってことだから、俺は今から病院へ行ってくる。お前は留守番を頼む」
「そんな……俺も行くよ!」
「駄目だ。お前は家にいろ」
告げられた病院は、家から自転車で行ける距離ではあったが、それでもこれから向かうとなると、時間帯的にもかなり遅くなってしまう。そんな中、まだ小学生の大地を引っ張り回すわけにはいかない。
「ちい兄!」
「駄目だと言ったら、駄目だ。深月達の様子がわかったら必ず連絡するから」
「…………」
「一人で留守番出来るな?」
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