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 まだ食べかけであった夕飯はまとめて冷蔵庫に入れ、洗い物は大地に任せ、智秋は取るものもとりあえず一人で病院へと走った。 「すいません。天野深月の弟ですが……」  夜間診療の入り口から入り、受付でそう名乗ると、当直の看護師が何か言う前に、奥の廊下から眼鏡をかけた若い医師が気付いて智秋のほうへと駆け寄ってきた。 「天野くんの弟さん?」 「はい」 「よかった。じゃあ、ついてきてくれるかい? 二人は治療を終えて眠ってるところだから。病室へ案内するよ」  霧島と名乗った医師に連れられて智秋が向かったのは、病院の二階にある四人ほどが収容可能な病室だった。 「いったい何があったんですか?」 「周りにいた人達の話では、どうも階段から落ちたらしいんだ」 「階段? どこの?」 「街外れにある神社、あそこの階段だよ」  その神社の階段のある場所は、昼間でも薄暗く、しかも裏には墓地があるということで、夏場は肝試しによく使われるいわくつきの場所だった。  学校への近道なので急いでいる時は智秋もたまに通り抜ける道ではあるが、確かに道幅は狭く段差も急で、しかも雨が降ったりするとかなり滑りやすくなる危険地帯でもある。  案内された病室の四つあるベッドのうち深月と由宇以外のベッドは空いているようだった。 「深月……!」  由宇は一番奥の窓際に、深月はその隣、入り口側のベッドに眠っている。まずは入口に近い深月のベッドへ駆け寄り、智秋はその青白い顔を見下ろした。  完全に意識はないようだが呼吸は規則正しく胸が上下している。見える所に包帯もなく、ぱっと見には大きな怪我も見当たらない。  いくぶんホッとして智秋は霧島医師のほうへと顔を向けた。 「怪我の状態は? 大丈夫なんですか?」 「そうだね。比較的深月くんのほうは軽傷だよ。頭を打ったと言っても、出血もしていなかったみたいだし、検査でも異常は見られなかった」 「深月のほうはってことは……」  おもわず隣で同じように眠っている由宇のほうへと智秋は視線を戻した。 「水澤由宇くんだね。どちらかというと彼のほうが重傷だ。もともと彼が足を滑らせて落ちたのを深月くんがとっさにかばおうと手を伸ばして一緒に落ちたという状況らしい。本当に運が悪かったとしか言いようがないよ」  結果的に深月は階段の途中で止まることが出来たが、由宇はそのまま一番下まで転げ落ちてしまったらしい。 「腕の骨折が一ヶ所と、内臓の損傷……あとは深月くんと比べると頭への衝撃がかなり強かったらしく、しばらくは意識が戻らない可能性もある」  難しい顔をして、医師は首を振った。 「……それって…かなりヤバい状態…ってこと?」 「今すぐどうこうということはないだろうが、しばらくの間は絶対安静だ」 「…………」 「だから、彼のご家族にも連絡をしようとしたんだが……一緒にいた少年の一人が水澤くんの両親はもう亡くなっていて、だから緊急連絡先は深月くんと一緒だと」  その少年というのは、恐らく鷹取だろう。 「ああ……そうです。由宇は…水澤由宇は今うちに一緒に住んでるんで」 「ということは、彼も君達の親戚か何か?」 「そういうわけじゃないですが……居候みたいなものです」 「じゃあ、保険証なんかもそっちにあるのかな?」 「……探してみます」  とは言ってみたものの、どうすればいいのだろう。  由宇はハウスキーパーとして天野家へ住み込んではいるが、もちろん血は繋がっていない。  両親はともかく、祖父母や親戚はどうしているのだろうか。  智秋は、由宇からそのあたりの話は聞いたことがなかった。ただ、近隣には頼れる人はいないはず。いないからこそ、今、由宇は智秋達の家に居るのだ。
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