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「すいません。深月の目が覚めるまでここにいていいでしょうか」
智秋がそうお願いをすると、霧島は穏やかに微笑んで頷いてくれた。
「わかった。深月くんのほうでも目が覚めた時、弟くんがそばにいてくれたほうが嬉しいだろうしね。今夜は君もここに泊まるといい。隣の空いているベッドを使えるように事務には連絡しておくよ」
「有り難うございます」
その時点で面会時間はとっくに終了していたはずだが、病院側も、現在智秋達の両親が日本にいないことを考慮してくれたのか、すぐに智秋が病室に残る許可を与えてくれた。
頼る両親は近くにはいない。他の親戚も遠い。
というか、比較的交流がある親戚はすべて深月の母方の血縁ばかり。それは、実は智秋自身がすぐに連絡を取れるほど親しい親戚が、周りに誰もいないということなのだ。
ひとりであるということには慣れていたつもりの智秋だったが、それでもこんなことがあると、やはり誰かにすがりたいという気持ちが湧いてくるのは抑えられない。
助けてほしい。智秋は素直にそう思った。
「深月……」
小さな声で深月の名前を呼んでみる。
「由宇……」
次は由宇の名前。
先ほど霧島医師が言っていたとおり、深月より由宇のほうが重傷なのだろう。頭に巻いた包帯の白さがやけに目に付いた。
頭を打っているということだったが、後遺症等は残らないだろうか。
いや、それよりも、ちゃんと無事に目を覚ましてくれるのだろうか。
深月に関しては、さほど心配することはないと霧島は言っていた。早ければ今夜、遅くとも明日朝には目を覚ますだろうとも。
では、由宇は?
由宇はどうなのか。
深月と違い、由宇の顔にはほとんど血の気というものがなかった。
ただでさえ色白であるというのに、今の由宇の肌は、透明になって消えていくのではないだろうかと思えるほどに透き通った青白さだ。
突然、智秋の中に恐怖の感情が渦巻いた。
どうしよう。このまま由宇が目覚めなかったら。
自分はどうすればいい。
どうすればいいんだろう。
「頼む。目を覚ましてくれ」
智秋が低くつぶやいた。
何でもする。
また昨日までの倖せな日々が戻ってくるのであれば、自分はどんなことでもする。
だからお願いします。
目を覚まして。
目を覚ましてくれ。
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