***(2)***

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「深月……なんとかしてくれ」  深月に言っても詮無いことだなんていうのはわかってる。  でも言わずにはいられない。 「深月……頼む」  頼むから。  すると、その時、そんな智秋の声に反応したのか、深月がわずかに身じろぎをした。 「深月……?」  予想していたより少し早いが、深月が目覚めてくれるのかもしれない。智秋はホッと安心して深月の顔を覗き込んだ。 「大丈夫か?」 「……智秋……?」  つぶやくように深月が声を出した。そしてゆっくりと目が開いていく。 「よかった……目が覚めたんだな。大丈夫か? 身体、どこか痛むとこはないか?」 「大丈夫……どこも……」  言いながら深月の視線がぐるりと部屋の中を回った。 「ここは……?」 「大学病院だよ。お前、階段から落ちたんだって。覚えてるか?」 「階段……? ああ、そうだ……確か……」  記憶を探るように深月の視線が左側へと向けられ、次いで少し伏せ目がちになる。それを見てほんの少し智秋の中に違和感が広がった。  何かが違う。  いつもの深月の仕草ではない。どちらかというと、これは由宇がよくやる仕草だったように思えたのだ。 「……深月?」  智秋の声に反応して深月が顔をあげた。切れ長の凛とした目。通った鼻筋に細めの顎。やはりそこにいるのは間違いなく深月の顔で深月の目だ。  では、今さっき感じた違和感は何だったんだろう。 「え…と、大丈夫か? 深月」 「み…? そうだ深月は? 深月は無事なの?」 「……は?」  おもわず目が点になるというのは、まさにこういうことだろう。  智秋は目をまん丸に見開いてマジマジと深月の顔を見つめた。 「お前…何言ってんだ?」 「何…じゃないよ。深月は? 一緒に落ちただろう。怪我…は……」  というところで深月の言葉が止まった。視線の先は智秋の身体越しに見える由宇の顔だ。 「……どうして……?」  深月の目が限界まで大きく見開かれ、身体が小刻みに震えだした。 「どうして…僕がそこに寝てるの?」 「…………?」  条件反射のようにつられて智秋も後ろを振り返る。  どう見ても今、智秋の目の前にいるのは深月であり、後ろのベッドで眠っているのは由宇だ。そして、由宇に向かって放たれた僕という言葉は、深月の口からでた言葉だった。  ここまでくるともう違和感などという言葉では括れない。  いったい今、ここで、何が起こっているのだろうか。 「…………!」  見ると、深月の口が悲鳴のような形に大きく開かれつつあった。 「わ…ま、待て!」  慌てて智秋は手で深月の口を塞ぎ、弾みで一緒にベッドの上に倒れ込む形になった。  驚きと衝撃と混乱とで、お互い硬直したように固まっている。でも、おかげで深月の口から飛び出しかけていた悲鳴はひとまず収まったようだった。
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