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 日曜日の朝。  惰眠をむさぼっていた智秋(ちあき)の目を覚まさせたのは、階下から響いてくる一本の電話のコール音だった。 「……んだよ、こんな時間に」  寝ぼけ眼で見上げた先にある時計の針は10時を指している。  周りに言わせれば、別にこんな時間というほどには別に非常識な時間帯ではないのだが、本人にしてみれば、せっかくゆっくり寝ていられるはずの休日の朝なのに…と、文句のひとつも言ってみたくなるのは仕方ないという心境だろう。  大きな口を開けてあくびをしながら、智秋はゆっくりと階段を下り、面倒くさそうに受話器を持ち上げた。 「……はい、天野(あまの)ですが」 「ごめんね、智秋。もしかして寝てた?」 「由宇(ゆう)? どうした?」 「うん、今、深月(みつき)の学校に来てるんだけど」 「深月の……? ああ、そうか」  そう言えば、深月に忘れものを届けに学校まで来てほしいと頼まれたので行ってくるねと、朝、由宇が出かけていったことを思いだし、智秋はポンッと手を打った。  ベッドの中から顔を出すこともせず、夢うつつのままいってらっしゃいと手を振ったあと、そのまま二度寝に入ってしまっていた為、すっかり忘れていたのだ。 「わざわざ外から電話かけてくるなんて珍しいな。いや、珍しいなんてもんじゃないぞ。もしかして初か?」 「そう言えばそうだね。なんか変な感じだ」  もう声変わりしているとは思えないほどの少し高めの甘い声で、由宇が軽い笑い声を立てた。 「で、何かあったのか?」 「えっと……実は……その…せっかくここまで来たんだから、このまま試合を見に来ないかって、深月が」 「なんで?」  おもわず返す声が尖ってしまい、電話の向こうで一瞬由宇が(すく)んだのが分かった。 「……駄目……かな?」 「いや、駄目じゃないけど……」  けど、なんだというのだろう。  次の言葉を発することを躊躇した智秋の耳に、受話器の向こうから深月らしき声が聞こえてきた。おそらく由宇に電話を替われと言っているのだろう。  今日は深月が所属している剣道部の対外試合があり、深月達はこれから隣町へ行く予定になっている。 「おい、深月。もしかしてお前、最初からそれ目的で由宇を引っ張りだしたのか?」 「……なんだ、それは」  電話を替ったとたん、飛び出してきた智秋の憎まれ口に、深月が顔をしかめた。 「人聞きの悪いことを言うな。別に俺は嘘をついて呼び出したわけじゃない。せっかくの休日なんだから、由宇にも羽を伸ばさせてやろうと思っただけだ。お前だってこの間そんなこと言ってなかったか?」 「そりゃ言ったけど、だからってなんでそれが深月の試合観戦になるんだよ。今日は俺の勉強を見てくれる約束してた日だろう」 「A判定でほぼ合格確実と言われてるくせに、今更お前が勉強をみてもらわなければならない理由のほうが俺には見当がつかん」 「んなのお前に関係ないだろうが」 「関係なくはない。だいたい由宇はお前の所有物じゃないんだぞ」
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