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***(4)***
深月の身体の中で由宇が目覚めてから三日が過ぎたが、相変わらず状況は何も変わっていなかった。
由宇の身体はいっこうに目覚める気配すらないままだし、深月の意識も目覚めない。由宇のままだ。
しかし当然のことだが、病院には事故前の深月を知っている者はいないので、深月が深月らしくない態度をしていても、それに気付く者はなく、その所為もあってか、軽傷ですんだ深月の身体のほうは異常なしとの診断がくだされた。
「ってことは、学校に通わなきゃならないんだよね、僕」
由宇が、智秋に助けを求めるような視線を投げる。
でも智秋はその視線をさりげなく避けて、諦めたように首を振った。
「こうなるともう、なんか聞かれたら怪我の後遺症で記憶が混乱してるとでも言うしかないんじゃないか?」
「そんなぁ……」
嘆いてもどうすることも出来ない。
この状況で本当のことを言ったとしても、深月が変人扱いされるだけなのだ。
学校での深月の友人関係、勉強の進み具合、休み時間の過ごし方。
あらゆることが、深月としての記憶がない今の状態の由宇にとっては、未知の世界だ。
でも、やるしかない。
翌朝、緊張した面持ちで深月の通う高校へと足を踏み入れた由宇は、校門の所で一旦立ち止まり、大きく深呼吸した。
深月にとっては数日ぶりだが、由宇にとっては初めての登校である。
とりあえず由宇は誰にも声をかけられたりしませんようにと心の中で祈りながら、予め智秋に教えてもらっていた深月の教室へと向かった。
「深月! もう出てきて平気なのか?」
由宇が深月の教室にたどり着いたとたん、笑顔で駆け寄って来たのは鷹取だった。最初に声をかけてくれたのが、少なくとも自分も見知っている相手であったことに心底ホッとして、由宇は鷹取のほうへと笑顔を向けた。
「うん、もう大丈夫。まだ何回かは通院しなきゃいけないみたいだけど、普通に学校へも行っていいって」
「そっかー、良かったなあ。マジで心配してたんだぞ」
鷹取は由宇達が怪我をした翌日も病院へ見舞いに来てくれたらしいが、入れ違いで深月のほうが退院してしまっていたのですれ違いになっていたのだ。だから会うのは数日ぶり。怪我をしてからは初めてとなる。
深月の顔を見たとたん、鷹取はようやく安心したようにホッと息をついて、深月の正面の椅子に腰を下ろした。
慣れた感じで背もたれに腕をまわし頬杖をついているところを見ると、恐らくこの場所は鷹取の定位置なのかもしれない。
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