***(5)***

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「どうだった? 初めての高校生活は」  家に帰ると待ちかまえていたかのように智秋が由宇の所に飛んできた。どうやら朝からずっと気になって仕方なかったらしい。 「なんとか…ね。とりあえずおとなしくしてたら、みんなまだ怪我の所為で元気がないんだろうって思ってくれたみたいだ」 「鷹取って奴は?」 「とても心配してたよ。深月のこと」  もしなにかがおかしいと気付く者がいるとしたら、彼が第一候補だと、智秋も考えているのだ。 「そういえば……あの二人って幼馴染みなの?」  もし二人がずっと幼い頃から一緒にいたような仲なのだとしたら、よほど注意しないと鷹取の前で深月の振りをし続けることは難しいのではないだろうか。  由宇の不安げな視線を受け、智秋は少し首をかしげて考え込むように腕を組んだ。 「……幼馴染みじゃなかった…と思う。俺もあんまり詳しく知らないんだ」 「そうなの?」  弟だからといって兄の交友関係を全部知っているとは限らない、ということか。  由宇は困ったようにうつむいた。 「あ、そうだ。思い出した。お互い知り合ったのは中一の頃だ。なんか剣道の試合で対戦して、すっげえ奴がいたとか珍しく深月が興奮してた時があったんだ。あれ、あいつのことだ」  智秋がようやく思い出したと、弾んだ声をあげた。 「しかもそれ中学の地区大会かなんかだったはずだから、学校も別。だから幼馴染みじゃなく、大会で顔を合わせるライバルって感じだったんじゃねえか」 「なるほど。ライバルね」  確かに二人が“たかみつコンビ”と呼ばれている所以も、剣道で良い試合をしたからだった。  今でこそ同じ剣道部に所属している仲間だけど、中学の頃はお互い敵だったということなのだろう。 「だから仲は良いだろうけど、剣道以外じゃ接点は少ないんじゃないか? 部活はドクターストップがかかってるからって、しばらくは参加しないことにしたんだろ」 「そうだね」  少なくとも今の由宇に部活動、しかも剣道など不可能だ。  ふだんの授業でさえ、わからないことだらけなのに、これ以上頭と身体に負担をかけてどうする。 「だったら大丈夫。部活動に参加しさえしなきゃ大丈夫だろう。それより授業のほうは? 高校の授業受けたのなんか初めてなんだろ。なんとかなりそうか?」 「そっちは……はっきり言って微妙かも。中三までの学力しかないのに、いきなり二次関数とか証明とか勘弁してほしいと思った」  そう言いながら、由宇は軽く肩をすくめてみせた。 「英語も知らない単語が多くて、まずそこからなんとかしないとなあって」 「……だよな。やっぱり」 「あ、でも、歴史の授業は面白かったよ。範囲がちょうどヨーロッパの中世の時代でね。ほら、この間見た十字軍の話の映画。あれがまんま出てきてさ……」 「……なんか楽しそうだな。由宇」 「……え?」  困った困ったと言いつつ、話が授業のほうに向かったとたん、由宇の表情がふっと明るくなったのに気付き、智秋が鋭い指摘をいれた。 「もしかして、初めての高校生活は楽しかった?」 「……それ…は……」  次の言葉が繋げなくて、由宇はおもわずうつむいた。
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