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いつもならあなたの夏の夜の夢が聴こえてくる頃なのに、おかしいわ。今夜に限って静か。
どうしたのかしら?
もう少し待ってみましょう。
――耀の弾く、夏の夜の夢の中で咲けたら
あなたと出会ってからわたし、どんどん欲張りになっていった。
開花が近付く程にもっともっとって止め処ないの。
それはこれからもずっと変わらない。そう思うと、枯れることなんて考える余地もなくて、その時が来てもこなくても、わたしはあなたと生きていくの。だから文句のひとつでも言いにいきましょう。
「いつ夏の夜の夢は始まるの?」
香りで包み込んで後ろから抱きつくように声をかけると、あなたは寂しそうに微笑みながら振り向いた。ささやかな月光のせいかもしれないけれどそう見えた。
そんな顔しないで。
「今夜は特別な日だから、耀のピアノでお披露目したかったのに」
頬を膨らませてみせると、あなたは、ほっとしたのか、わたしを迎え入れるように目を合わせて気障なことを言った。
「ごめん。僕が育てた月下美人があまりに綺麗で見とれてたんだよ」
「夜はまだこれから。もっと綺麗に咲くよ」
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