請われる心に応える間もなく乙女は戦う義と忠のため

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その夜、竹子はなかなか寝つけなかった。あのときなぜあんなに短い木刀で勝負を挑んだのか、薙刀と勝負するなら長さのある槍の方が有利だ。それにあんなに大きく振りかぶったら胴は隙だらけ、本物の戦なら死んでいる。まるで私に勝ちを譲ってくれたような勝負だった。もしかして私のために…。 いくら竹子が強いといっても、槍を持った玉木と勝負すれば勝てた試しがない。いつもまだまだ、もう一回と言って彼に稽古をつけてもらっていた。本来ならば男女の稽古は別だが、竹子が強すぎて男との稽古を認められた。養父の甥っ子であれば身内でもあり、何より生真面目な会津の男が嫁入り前の娘と間違いを犯すなど考えられない。 負けず嫌いな竹子の稽古に玉木は嫌な顔ひとつせず付き合ってくれた。戦に赴く者の気迫に負けたなどと言っていたが、私が心残りなく戦えるようにあんな茶番のような勝負を仕掛けてくれたのか。自然と涙がこぼれた。 決してこの縁談が嫌な訳ではない。赤岡家の養女として迎えられ、養父の甥っ子玉木との縁談。むしろ武家の娘として親が決めた縁談は何があっても相手がどんな相手でも黙って嫁ぐもの。その点で竹子は幸運だった。家同士が決めた相手と言ってもお互いに武芸の腕を磨く者同士、まるで竹馬の友のように仲良くこの道場で過ごしてきた相手。この方のよき妻として一生尽くしたいと思って心が揺れた。 しかし、今は藩の一大事。ここで戦わずしていつ戦うのか。妻として幸せに暮らすよりも私には、会津のおなごとしてやらねばならぬことがある。     
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