請われる心に応える間もなく乙女は戦う義と忠のため

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涙橋に建てられた中野竹子の像に、一年のうちたった一日だけ異変が起きるそうだ。snsでウワサが広がった。8月25日竹子の命日に竹子の像の胸元が赤く染まるという。会津では血だと思って腰を抜かす者もいるそうだが、幽霊と友達になれたらおもしろいくらいに考えている怖いもの知らずの観光客がいた。不敬にも竹子の像をよじ登って確かめると赤く染まる胸元には櫛のような形が浮かんでいたらしい。その若者はこうつぶやいたそうだ。 「やっぱ女なんだな、戦うときも櫛を大事に持ってるなんて」 そうつぶやいてよじ登った像から降りて涙橋を歩いていると、 「男子たるもの毅然とせねば。おもむろに女人の体に触れるとは無礼千万…。」 怒ってはいるが少し懐かしそうで嬉しそうな女の声が聞こえたきたそうな。まるで許嫁の玉木に男子たるもの…と説教をする竹子が生き返ったかのようだ。そんな昔の事情を知らない若者は悪びれもせず竹子像に話しかける。 「ごめんね。竹子さん、スゲー美人だからつい抱きついちゃってさ。櫛を懐に入れてたなんて女子力高いね、今生きてたらめっちゃモテたよ」 化けて出たつもりの竹子は平成の流行語がよく理解出来ないものの、冷やかされてることだけは理解してこのお調子者の若者に凄んでみせた。 「叩き切るぞ、この小童!」 「いいね、ツンデレとか最高!」 子犬のように目を輝かせている若者に竹子は幽霊として怖がらせるということを諦めた。その代わりにひとつだけ気になっていたことを目の前のお調子者に尋ねてみた。 「ひとつ尋ねるが、今の世は穏やかか?」 若者はちょっとだけ考えてから答えた。     
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