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「まあ竹子さんが生きた時代よりは穏やかじゃね?戦争が全部無くなった訳じゃないけどさ。日本人同士が敵味方に別れて血で血を洗うような戦いはしてないよ」
竹子は目に涙を浮かべてその涙を指で拭って微笑んだ。
「そうか。玉木さまがいうような穏やかな世がやっと訪れたのだな。あの別れは無駄ではなかった。」
若者はもう一度竹子像によじ登って竹子が拭いきれない涙をハンカチで拭いてあげる。
「竹子さん、泣かないでよ。ごめんね、いきなり胸触った俺が悪かったよ。頼むから呪わないで」
「おのれ、ふざけておるのか。あの別れとはなんぞやと尋ねるところで何をとち狂っておるのじゃ!」
「悪い悪い。あの別れって何ですか?」
竹子は赤岡家の養女となり養父の甥っ子である玉木と許嫁になったこと、戊辰の戦に赴くために赤岡家から実家の中野家に戻ったこと、玉木のことは親が決めた許嫁とはいえ心から慕っていたことを、とうとうと若者に語った。若者は相槌を打ち竹子の話をよく聞いてくれた。時々生きた時代が違うが故のジェネレーションギャップで話が噛み合わないと、若者はスマホで検索して現代語と古語を上手く翻訳していった。そして、竹子の思い出話が終わると竹子像に向かって若者は初めて真面目な顔でこう言った。
「竹子さんって幸せだったんですね、そんなに思ってくれる人がいて。」
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