シーズン、真っ最中①

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 それから二人は楽しく話をしながら食事を済ませた。食器も下げられ、楓は立ち上がって窓から外を眺めていた。目に映る夜景がとても綺麗だった。  ふと気がつくと前園が隣に立っている。そして少しの沈黙。その後、詰めていた息を深く吐くような音がして、唐突に前園は楓の手をぐいと引っ張った。楓はそのまま前園の左肩に顔を埋める。楓の耳に彼の心臓の音が伝わって来て、それにリズムを合わせるように、楓の胸も高鳴り始める。気持ちいい、すごく心地良い。  顔を上げると前園がいつもの切れ長の目元を少しゆるめて楓を見つめていた。その表情が本当に優しくて……と見とれる楓の唇に前園の薄い唇がぎこちなく降って来た。  だがその唇のぬくもりは一秒もしないうちに離れて行く。 「……?」  ほんの一瞬、不器用に重ねられただけの唇に、楓は目を開けて怪訝そうな顔をした。すると目の前では前園も複雑そうな顔している。そのままの態勢で彼は楓に聞いてきた。 「楓……大丈夫だったか?」 「え、大丈夫って……キスがって事? うん……」  あっという間すぎたし、どうしてそんな事を聞くのかと思ったが楓は大丈夫よと答える。 「そうか、よかった」  前園は彼に似合わず緊張していたようだった。安堵したように息を吐き、再び楓に尋ねる。 「本当に嫌じゃなかったか?」     
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