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「嫌なわけないでしょ? そんな心配しなくても良いって」
どことなく不安そうな表情で、不思議な質問ばかりをする前園に、楓は苦笑した。
「よかった」
「何が?」
「お前に嫌がられなくて、良かった」
きっと、彼の中では昔の記憶が過ぎったのだろう。それに気がついた楓は優しく微笑む。
「もう、そんな事気にしなくて良いってば。嫌だったら啓とこうしてないからね」
「そうか。それなら良いんだ」
楓の言葉に安心したのか前園の表情はいつもの彼に戻っていた。そして楓が再び目を閉じると前園の唇が楓の唇にそっと重なった。
「んっ……」
楓はその気持ちよさにうっとりとしていた。いつもはクールな彼の熱が嬉しくて愛しい。長いキスが終わりゆっくりと唇が解かれた。楓は前園の目を見つめていった。
「好きだよ。啓」
「俺は愛している」
心底愛しそうに前園は再び楓に口付けた。
翌朝、前園が送ると言ったが、大事な時だし一人で大丈夫だからと花束を抱えて部屋を後にした。
「家に着いたら、絶対に電話しろ。それから家の鍵はすぐに掛けるんだぞ。あと……」
「もう、分かったって。大丈夫だから。もう、啓って心配性なんだから」
小さい子供の保護者のような前園の様子に、楓は再び苦笑いをしてホテルを後にした。
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