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ペナントレースも大詰めを迎えた八月。
さすがの前園もあまり楓に連絡を出来なくなっていた。ブルーマリーンズはルーキーの投手前園が好成績を収めてはいるが成績は芳しくなかった。
そんな時、マスコミではレッドタイタンの佐竹透哉と、人気アナウンサー鈴木茜の熱愛が話題になっていた。二人が仲良く食事しているところを週刊誌に撮られていたのだ。
ワイドショーで連日報道されるため楓の耳にその話題は入った。お互いに否定も肯定もせず『良いお友達です』と答えていた。
ただ、透哉は高校を卒業したルーキーで九月に一九才になるが、まだ一八才、茜は入社一年目の二三才。特に透哉ファンからは茜に対していろいろバッシングが起こっていた。茜が勤務するテレビ局には透哉と別れろと言う内容の手紙やメールが送りつけられてきていた。
茜と透哉は人目もあり、あまり逢えずにいた。それでも、お互い時間を見つけては連絡をしていた。
ある日、電話で茜が透哉に切り出した。
『もう、逢わない方が良いんじゃないかな? ほら、透哉はこれからの選手だし、私の事でいろいろ言われて、試合に影響するんじゃないかと思うし』
それを聞いた透哉はふと、高校時代の記憶が蘇った。
甲子園の前、楓に突然逢えないと言われた事。もう、あんな思いをしたくない。あの時、楓をしっかりと捕まえておけば、あの後あんな風にならなかったはずだ。
「どうして? 言いたい人には言わせておけばいいじゃないか。僕は、いっこうに構わない。それとも茜は僕の事が嫌いになったの? 僕は嫌だよ、逢えなくなるなんて」
いつもは穏やかな透哉が珍しく強い口調なので茜は驚く。
『そんな事ないけど、透哉の事大切に思うからこそ、そう思って……』
「じゃあ、僕の側にいてよ。野球の事は大丈夫、結果を出すから。茜の事、誰にも文句なんて言わせないから」
『透哉……』
透哉の気持ちを聞いた茜はできるだけ彼の支えになろうと決意した。
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