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「うちってほら、愛想のないこの子一人でしょ。おばさん、楓ちゃんみたいな可愛い娘が欲しかったの。楓ちゃんのこと娘みたいに思っているから」
自分の息子のこと『愛想のない』って、当たっているけど、啓は絶対お父さん似なんだろうなぁと良く喋る母親を前に楓は思った。
「これからもいつでもいらしてね。楓ちゃんなら大歓迎だわ」
母親はとりとめのない話ばかりをしていた。三人で和やかな時間が流れる。とは言っても話の八割は母親が喋っていた。ふとお母さんの話は何だろうと楓は思った。母親から取り立てて大事な話をされていない。
そう言えばと母親が時計を見た。
「それがね、せっかく来てもらったのにおばさん急用が出来ちゃって、もうすぐ出掛けないといけないの。でも楓ちゃんはゆっくりしていってね」
「はぁ」
突然、母は前園をジッと見る。さっきまでの柔らかな表情を消し真剣な顔つきだ。
「啓。あなた、楓ちゃんの事、大事に思っているんでしょう?」
「ああ」
お茶を飲みながら前園は答えた。
「あなたたち一緒に暮らしたらどうなの?」
その一言で前園がお茶を吹いた。
クールな彼でもこんなことするんだと思いながら楓はハンカチを前園に手渡す。
「お、おふくろ、そんなにはっきりと……もう少し言い方が」
口元を拭いながら前園が慌てて言う。
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