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「言い方なんてどうでもいいでしょ。ようは一緒に住んだ方がいいって言っているの」
母親はぴしゃりと言った。楓はその様子に呆気にとられる。母親が息子に同棲を勧めるなんて聞いたことがない。
「あの、前園くんは寮に入っているしそれは無理なのでは」
楓が言葉を挟んできたので母親は表情を崩し笑顔になる。
「だって、楓ちゃんも心配でしょう? 野球選手っていろいろ誘惑もあるし、ほらこの前も同級生の佐竹くんもテレビのアナウンサーと噂があるじゃない」
「はぁ」
どうしてここで透哉の名前が出てくるんだろうと思ったが、そんな楓の気持ちをよそに母親は続けた。
「別に佐竹くんの相手がどうとかじゃないのよ。あの相手の人は感じも良さそうだし。でも野球選手にはいろいろな人が近寄ってきそうじゃない?」
「あの……私、前園くんの事信じていますから」
「でも、楓ちゃんの気持ちを考えるとねぇ」
母親はお茶をすすった。
(お母さんが私に会いたいってこの事を言うためだったのか)
てっきり交際を反対されると覚悟していた楓は、母親の言葉に拍子抜けしたと同時に、感謝した。まさか会ったこともない自分に対して、ここまで心配してくれているなんて思ってもいなかった。
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