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数日後、鈴木茜は横浜にいた。今日はブルーマリーンズの選手にインタビューを撮る日だ。
「前園さんかぁ、この人ほとんどインタビューに答えないんだよなぁ」
茜は溜息をついた。他の選手は、快くインタビューに応じてくれたが、このルーキーはなかなか良いコメントが取れない事で有名だ。まぁ頑張るしかない。そう思って茜は前園のいるピッチャー練習場に向かった。
前園はその頃、黙々と練習をしていた。そろそろ休憩に入ると言う時、マイクを持って立ちすくんでいる人物と目があった。
「楓?」
そう思ったが、よく見ると別人だった。だいたいこんな所に楓がマイクを持っているわけがない。その人物はおそるおそる前園に近づいてくる。どうやらマスコミのインタビューらしい。よく見ると楓に少し似ていたが全くの別人だった。
練習中まで楓の顔がよぎるとは……。前園は一人苦笑いをした。
「……?」
その様子を茜は怪訝そうに見る。自分をジッと見て苦笑いするなんてインタビューする前から気に障る事したかなぁ。
「あの、私何かしましたか?」
思い切って尋ねてみた。
「ああ、すみません。知り合いによく似ていたので」
「そうですか。良かった。何か失礼な事したんじゃないかと思って」
「そんな。インタビューですね。どうぞ」
いつもの愛想皆無な前園とは少し違う。彼は快くインタビューに答えてくれた。
「あの、私そんなに前園さんのお知り合いに似ていたんですか?」
インタビューが終わって茜は尋ねた。
「ああ一瞬です。忘れてください」
前園はフッと笑った。いつも無表情を貫いている前園の笑顔を見て、茜は目を丸くする。そしてある事を思い出した。
「実はこの前、レッドタイタンの佐竹選手にも同じ事言われたんですよ。もしかしてその方、高校時代のお知り合いなんですか? お二人とも同じ高校出身だから」
何の気なしに茜は言ったが、前園の動きがピタッと止まる。
「あの私、何か変な事言いました?」
「いえ、そうですか。佐竹も同じ事を……偶然じゃないですか? すみません、まだ練習がありますので」
前園はいつもの無表情に戻っている。
「あっ、おじゃましてすみませんでした」
茜は深々と頭を下げてその場を後にした。
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