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シーズン、真っ最中①
六月の始め、ペナントレースの真っ最中。
『楓、今度横浜スタジアムに試合を見に来てくれ』
前園が電話口で告げた。前園は忙しい中でもこうやって時間を見つけては時々電話してきていた。
「うん、行きたい。啓の投げている所見たいな」
『俺の登板と合うと良いんだが。都合のいい日が分かったら連絡してくれ』
「私は学生だしナイターなら大丈夫だよ。まぁ、帰るの遅くなるし、翌日が昼からの授業とかの日があったら連絡するね」
楓が連絡した数日後、楓の元に前園から郵便が届いた。中を見ると、バックネット裏の指定席チケットとホテルの招待券が入っていた。そこは県内でも有名な高級ホテルだった。楓が届いたとメールをすると暫くして前園から電話がかかってきた。
「ねぇ、ホテルの招待券も入っているんだけど。ここってかなり高級なホテルだよね。私、試合が終わったら電車で帰るよ」
多少遅くなっても終電には間に合うだろうしと楓が言う。
『いや、夜一人で帰るのは危険だ。球場近くだしこのホテルに泊まるといい。次の日に帰っても授業は間に合うんだろう?』
「そうだけどこんな高いホテル泊まれないよ。どこかのビジネスホテルにするよ」
『いいんだ、もう話はしてあるから。それに俺も試合が終わったらそこに行く』
「えっ? でも啓、横浜で試合なんだから寮に戻るんじゃないの? それに投げた後なんて専属のトレーナーさんがいるところでゆっくりした方が良いよ」
心配そうに楓が口を開く。
『外出届を出すから寮には帰らなくていいんだ。それに楓に話もある』
「話?」
『まぁ、逢ってから話す』
「うん……」
啓の話って何だろう。そう思いながら楓は電話を切った。
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