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 太一が動き回ったことで、ケージの中のペットシートに落ちていた犬の糞が、少し跳ねた。それは鉄柵をすり抜けて、爽太の顔にくっついた。  「うぎゃあああああああああああああああっっっ」  目の前を掻き毟るように、爽太は糞を払った。お陰で手にも付いた。汚辱だ。クソ犬め。  「………。名前なんだったか、こいつ…。たろう…、たすけ…、たい、たいち。たいちか、たいちだ。覚えてろよ」  そう呟いて、爽太はケージの入口から太一をきつく小突いた。鼻先に急激な痛みを感じ、太一は鳴きながら後ずさりした。  「どうか新しい飼い主様が見つかりますように…ってな。死ぬ気で祈れ」  さっき以上に激しくドアを閉めた。車が壊れるのではないかというほどの衝撃があったが、壊れたとしても困るのは会社だ、と爽太は微塵も気にしなかった。
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