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 「ドライブレコーダーって、映像が残るだけじゃないんだよ。音声が残る。去年の9月27日、お前の中で相手のコンドームが破れたらしいな。射精した後だったにも関わらず、お前、それ聞いて笑ってたな。ゾッとしたよ。浮気、セックス、それだけでも許すつもりは無かったけど、その笑い声に俺は心の底からゾッとした。虫唾が走った。そして出来れば、お前の中に証拠が残ればいいと、何故かそんな気持ちに瞬間的になった」  “証拠”と言いながら、賢二は結依の胎盤の辺りを指さした。赤ん坊のことを言っているのだ。  「そ、そんなの嘘だよ!なんでわざわざドライブレコーダーなんか確認してんのよっ。気持ち悪い」  精一杯の抵抗だった。腹部がじんじんするほど痛いが、話しきらないと彼女も気が収まらない。  やれやれと言った感じで、賢二が嘆息を漏らした。  「去年の…、三月か四月くらいか。お前、メイクが変わったんだよ」 「えっ」 「濃くなったって言うのかな。睫毛とか目の回りとか、全然違う。化粧品とか俺、詳しくないけど、お前の趣味じゃないんじゃないか、って感じたのが最初の違和感だ」  心臓が早くなり始めていた。明るみに曝されようとしている過去について、結依は耳を塞ぎたい心地だった。  「別にそれくらいなら、何かを疑うことはなかった。週末も家にいるし、一人でお前が外出してる痕跡も無かったしな。だけど俺は洗濯物を畳むから、下着の趣味まで変わったのは、見過ごせなかった。“誰か”、“特定の誰か”に気に入られようとしているか、気に入られた後なのか。俺は平日は朝から晩まで家にいない。お前が何曜日にパートに出てるのかまでは当然把握しきっていなかったし、まずは仕事着が洗濯されていない日のドライブレコーダーを確認することから始めた」  動脈と静脈を血液が逆流しているのではと結依は思った。呼吸も荒くなり、その音が耳の奥まで響いて不快だった。嘔吐しそうでえずいた。しかし賢二はそれを無視した。
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