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 「お願い、信じて。私と賢二、あなたの子なの」  下腹部の痛みが少し治まり、涙が乾く頃、遅れて割れそうな頭痛が襲ってきた。一刻も早く病院へ行かなければという気持ちと、彼の真意を聞き出さなければならないという気持ちが、桐沢結依の中で揺れていた。  『それ、俺の子じゃないでしょ?』  ここ最近、とても仲が良かった二人。その幸福の静寂(しじま)を打ち破る、悪魔のような言葉。何故そんなことを急に、また妊娠7ヶ月も経過した今更、彼が言い出したのか、結依にはさっぱり分からなかった。  だが、強く否定は出来なかった。  「お前、浮気してたよな?」  ようやく口を開いた桐沢賢二のこの台詞で、結依は思わず蒼褪めた。  なんで?  「なんで、そんなこと言うの。証拠でもあるの。赤ちゃん、死んじゃったらどうするのっ」  また涙が溢れた。気持ちが昂ぶっている。感情を抑えられない。結依は、思い描いていた明るい未来がもう無いことだけを、この時悟っていた。  「どうするの…。死んじゃうよ…」  何にどう訴えかければ、賢二は向き合ってくれるのか。結依には分からないことだらけで、今、何をすればいいのかすら考えることが出来ずにいた。最優先はお腹の中の宝物。夫に何度も蹴られた衝撃で、もしかしたら命の灯が消えてしまったかも知れないことを、最初に危惧すべきなのに。  鼻を啜り、泣きじゃくる妻に、賢二は更にこう告げる。  「車ん中でヤる時は、夏でもエンジン切っておくんだな。どんなに暑い時でもな」  その言葉が何を指しているか、結依には合点がいかなかった。賢二は妻と目を合わさないが、彼女の得心(とくしん)がいっていないことは判別出来た。
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