真夜中に逃げていく、私たちの憂鬱

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カキンッ! 南京錠が、ついに壊れた。 屋上への扉が開き、汗だくの里美を夜風がクールダウンさせる。 「やった」 達成感と解放感で、里美は喜びの感情を口にした。 屋上から、町を見下ろす里美。 町中の街灯の光が、網のように連なって見える。 この網が、少女を町から逃がさない。憎むべき存在。 しかし、今の里美には、ネガティブな感情は湧き上がらなかった。 「ああ、気持ちいい」 母は、父に捨てられてから、あんな風になった。 きっと、私を折檻することで、寂しさを紛らわせているんだ。 祖母は、病気をしてから、あんな風になった。 きっと、呪文を唱えることで、死への不安を忘れようとしているんだ。 いつも、どんなときも、ずっと里美を癒してくれた夜風を、里美は優しく抱きしめた。 里美の眼下で、小さな赤い光が、網目状の街灯を縫うように、町を駆け抜ける。 パトカーのサイレンが、はるか遠くで響いていた。
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