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ただし、夜明けまで決して開くことのない襖も、時々、イレギュラーに開くことがある。
「里美!石鹸買ってきなさい!」
(ここから出たくない)から、里美は返事をしない。
襖は勢いよく開いた。切れかけた蛍光灯の光が、里美の眼球を刺す。
里美は長い髪の毛を強引に捕まれ、強引に押入れから引きずり出された。
怠惰な脂肪で武装された母の怪力に、やせ細った里美は逆らうことはできない。
里美は、そのまま屋外へと引きずられていった。
深夜2時に、石鹸が買えるのはコンビニくらいだ。里美の住む町は、田舎ではないが、都会でもない。コンビニはあるが、何件もあるわけではない。最寄りのコンビニまでは、徒歩で30分以上かかる。街灯の明かりを辿って、里美は夜道を一人で歩いていく。
青く光る街灯の光に、大量の蛾が集まっている。そして、昼間の間に降った雨が、町の汚物を蒸らし、里美の通り道を異臭で満たしていた。
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