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学校の前にたどり着く。
学校の広い校庭を、里美は走ったことがない。彼女に友達はいない。
里美は、ふと、校舎を見上げた。
屋上に人影が見える。
「誰?」
人影が身にまとっている白いシャツは、暗闇の中でも映えていた。
もっと良く見ようと、里美が目を細めた瞬間に、人影は屋上から高く跳んだ。
「キャアッ!」
里美は短く強烈な悲鳴をあげた。
人影は、一瞬のうちに、校庭の隅の林の中へ落ちていった。
落下点へと里美は走った。
人影は、生きていた。
真っ白なシャツは、真っ赤に染まっていた。
左手が不可思議に曲がった青年が、のたうち回っていた。
「イテェ!イテェ!」
里美は、その様子を無言で見つめる。
青年と里美の目が合う。
青年は、痛みを我慢して言葉を絞りだした。
「はじめまして」
里美は、混乱していた。里美は、じっと彼を見つめたまま、返答の言葉を絞りだした。
「救急車呼ぼうか?」
真っ当な言葉だった。
「いやいい」
「ケガしてる」
「寝たら治る」
青年は、仰向けに寝ころんだ。
痛みで、節々が激しく痙攣していた。
「そう」
里美は、また無言のまま青年を見つめた。
「イテェ!イテェ!」
「ねぇ?」
「なんだよ?」
「私も跳べる?」
「当り前だろ」
と青年は叫んだ。
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