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真夜中に逃げていく、私たちの憂鬱
その後、青年は、近隣住民が青年を発見し、救急車を呼ぶまで校庭でのたうち回っていたらしい。
数日の後、母と祖母が寝静まった隙を見つけて、里美は初めて自ら外へ出た。
真っ白なシャツを着た青年は、やはり屋上にいた。
左手には真っ白なギブス。
「あの林に向かって跳んだら、死なない」
青年はそう言って、里美を促した。
覚悟を決めて、家を飛び出した里美だったが、いざ屋上に立ってみると足元がすくむ。
「無理」
里美は早々に跳ぶことを諦める。
青年は、里美の横に立ち、眼下の林を凝視する。
「なんで跳べないのかわからない」
そう青年はつぶやく。
「また跳ぶの?」
「跳ぶ。前よりも、高く」
澄んだ夜風が二人を撫でる。
町には、ここより高い場所はない。
里美には、町の終わりが誰よりもはっきりと見えた。
青年が、膝を曲げ、空高く跳びだそうとした時、里美が青年の腕を掴んだ。
「待って」
「何?」
青年は不機嫌そうな表情で里美に聞いた。
「やっぱり、跳ぶのはやめよ」
「やめて何するんだ?」
「逃げよ」
「逃げるなんて簡単だ」
青年は、うそぶく。
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