真夜中に逃げていく、私たちの憂鬱

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それから数日して、二人はまた落ち合った。 しかし、待ち合わせ場所は屋上ではなく、学校前の街灯の下。 屋上への入口は、巨大な南京錠で硬く施錠されていたのだ。 街灯が照らす円錐状の光の領域の外で、二人は向かい合っている。 薄暗く、輪郭しかお互いを確認できていない状態だ。 「跳べなくなったね」 里美は、青年に言った。 青年が、一歩まえに進み、街灯の光の領域に足を踏み入れた。 あの補導官に殴られた左目の周りは、まだ赤くはれ上がっていた。 「うん」 青年は、うなだれて言った。 青年と同じように、里美も光の領域に足を踏み入れる。 「何があったんだ?」 ここ数日、過剰な折檻を受け続けていた里美の方が、外傷はひどかった。 そして、何より青年を狼狽させたのは、里美の髪型。 里美の長く艶のあった髪の毛は、短く、乱雑に刈られていた。 「さよなら」 里美は、冷たく言い放つ。 青年は、動揺したままで、里美の言葉が耳に入っていない。 里美はは、そのまま振り返り、もと来た道を帰っていった。 彼女の右手には、どこかから拾ってきた金属バットが握られていた。
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