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胸のざわつきがうるさく、手が微かに震えるが、その封筒を開けて中身を読む。
そこには美優らしい丁寧で、でもどこか弱々しい文字で手紙が書かれていた。
『智之へ
渡すあてのない手紙を書いています。
渡すつもりがないのに手紙を書くのは不思議な気がするけど、心の中ででも本当のことを話しておきたかったから。
あの日告げた「さよならの理由」は嘘です。
京介には、私が頼み込んで演技してもらっただけ。
私が好きなのは、昔も今も未来も智之ただ一人です。
さよならを告げた理由は、私が癌だったから。
わかったのは智之にさよならを言う数週間前。
わかった時には既にリンパにも移転していて、手の施しようがない状態でした。
もしあのまま結婚していたら、智之バツイチになっちゃうし…って言うのは冗談(笑)
あのまま結婚していたら、智之は私の死を悲しんでくれると思ったから。
いつか智之に新しい彼女が出来て、私のことを忘れてくれたら、悲しみも薄れるでしょう?
智之なら「なんで話してくれなかったんだ」って言いそうだけど、智之を悲しませたくなかったんだ。
そして、もしかしたらいつか治るかもしれないって期待してたから。
でもその期待も儚く散りそうです。
私は今、癌の最終ステージになった患者が入るホスピスにいます。
もうペンを握るのも辛いから、読みにくかったらごめんね。
智之がもし私の死を知ることがあったら、1度だけお線香を上げて下さい。
そしてそれが終わったら、私のことは忘れて前に進んで下さい。
色々考えたんだけど、取り留めのない手紙になっちゃったね。
智之へ。大好き。ありがとう。
幸せになってね。』
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