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或る時代、冬の音乃木町。
真夜中は思った以上に騒がしい。
ザワザワと香しい人のにおいに誘われて街へ出ると、フワフワとした足取りで闊歩する男女。彼、彼女らが飽和したアスファルトの道路から零れ落ち、ある者は光の溢れる箱へと自らを片付け、ある者は、光からあぶれて路の端で、路地の陰で、バジバジと音を立てる切れかけピンクネオンの建物の中で、日夜偽りの愛を育む。
そんなのばっか。
その日だけの愛。その日だけの恋。なぜなら、みんながみんな透明で、誰が誰だか本当はわかっていないから。彼らが気にするのは、隣の透明なアイツが言うノリに完璧に答えること。お互いの心を色のない通り一遍な快楽で精一杯満たすこと。そして、自分が集団の中の取り換え可能なワンパーツとなりきれているかどうか、ただそれだけ。
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