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でも、今は冬だから花なんて咲くはずがない。だから、ここでは男は一人の人間でいることができた。集団の中の取り換え可能なワンパーツではなく、自分しかしない、オリジナルな自分になれている。そう思っていた。でも、黒いコートに黒いスキニーを履いた男は、桜の大きく手を伸ばした陰に飲み込まれて、ただの一部に。もはや個ですらない。男はしょせん透明な人間なのだから。
男はコブだらけの桜の木の幹にへたり込むように座っている。目はうつろ。男の脳ミソ腐った仲間から一方的に打ってもらったシンヤクの作用がまだ残っているからだ。フラッシュバック。「絶対安全、お前もやろーぜ……ノレないとか、言わせねぇぞ。皆しているんだよ。お前もしねぇいといけねぇんだよ、なぁ、やるよなぁ」「ビビってんのか? おーい、コイツが俺らに男気見せるってよ」「ウェーーイ」「ノラナキャ、ノロウゼ、ライドン」「みんながいれば怖くない、つまり平和!」「ラブアンドピース」「平和は大切、平和は大事っ」「ご利用は計画的に♪」
月が少し傾いた。男はトートバックを持っていた。
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