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シノちゃんこと佐々土紫乃さんは、音乃木町で唯一の鉄道駅「音乃木駅」の駅前ロータリーで、夕方の5時から7時までの間、自作の絵を売りながら、悩んだり困っている人の愚痴を聞く「愚痴屋」を営んでいる。彼女の本職はイラストレーターさんで、個展まで開けるくらい凄い人なんだけど、なぜか毎日欠かさず「愚痴屋」はやっている。曰く「センパイにやれって言われてしぶしぶやってんだ。私の意思じゃない」らしい。(だからなのか、いつも態度が悪いと評価は概ね不評で、変人な常連さん以外で来る人はいない)
「で、ハコとしてはどうしたいの?」
最初から説明し直すと、麻布のトートバックからスケッチブックと鉛筆を取り出して何か絵をかきながら、シノちゃんが聞いてきた。人の話を聞くときにはいつもやる彼女の悪い癖だ。
「そりゃ、友達になりたいよ」
「なら勝手になるといい」
「なりたいけど、なれないから困ってんじゃん。その子、いつも本を使って『近寄るなオーラ』みたいなの出してんだもん。たぶん無意識なんだろうけど」
「しるかんなもん。多少迷惑でもハコから話しかけて壁を越えてしまえばいいだけの話じゃないか。いつも似たようなことやってるだろ? お節介虫」
シノちゃんは私のことをお節介虫とたまに呼ぶ。そして、確かに私は、自分がお節介な人間だと自覚している。(だから友達になりたいと思ったのかな? いや、そんなことない……はず)
「そのアオって子、音乃木小学校に来て日が経ってないんだろ? 学校を案内してあげるとか、教科書貸してあげるとか、ハンカチとかティッシュ貸すとか、何でもいいから話す口実を作って話せばいい」
「でも……」
「デモも何もないだろ? はい、もう終わり。この問題は解決しましたー。次がつかえてんだ、さっさと帰れ」
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