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十二月三十一日。二十時。
焼けた鉄とコンクリートの臭い。周囲の空気は火に炙られ、皮膚がヒリヒリするように熱い。
「……っつ、あ……火加減しろ畜生。焼き肉になるとこだ……」
崩れた解体途中の廃ビルの一階で、地面に横たわりながら恨めしい声を呟いたのは久遠。
彼の右半身は中度の火傷状態だった。すぐに手当てしたいが、そうも言ってられない。
まだ危険は去っていないからだ。
「!?」
真上から降ってきた直径五メートル程度の火球を転がって回避する。次いで巻き起こる爆風に転がった体がさらに奥へと飛ばされる。
「ぐっ」
「おいおい、さっきの威勢はどうしたよ! 大嶽丸を庇った時は随分と舐めた態度だったよなぁ!」
およそ一時間前。大儺儀の失敗。その原因の一端となった少年は、自らの野望を完遂するべく、強力な力を振りかざす。
土御門白臣。彼にはもはや、陰陽師本来の使命など存在していないようだ。
「さっさと燃えちまった方が楽だぜ? お前の燃え滓は故郷の山にでも撒いといてやるからよォ」
荒々しい声。声の主は一つ上の階の剥き出しの鉄骨の上で嘲笑っていた。陰陽寮の正装を纏う彼は、獰猛な視線をこちらに向けている。今、こうして戦う事に意味など何もないのに。
「あいにくと俺は都会育ちだ。故郷の山なんてないよ」
ゆっくりとした動作で体を起こす久遠。全身に突き刺すような痛みが走った。傷は思ってたより重傷だ。すぐには立ち上がれそうにない。この後に本命が控えているというのに。
(さて、どうしたもんか)
近くにヨミはいない。このままの状態で戦闘を続ければ、間違いなく殺される。いずれは駆けつけるだろうヨミの救援も、恐らくは間に合わない。
(こんな事なら俺も桃舞君達の方行けば良かった)
つい三十分前の自分の決断が本気で悔やまれる。
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