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だ、だめだこりゃあ……全く相手にされてないよ。なす術も無く引き寄せられていく哀れな先人に敬意を表しながら、身をひるがえし華麗なる敗走をキメようとしていたボクの右ふくらはぎ辺りにも触手が巻き付く嫌な感触が。
「コココ。『勇気』とかそういう強い指向性を持った思考が、わらわは大好きじゃ。それを混沌の中に呑み込んで、何やらわけのわからぬものに作り変えた時に、無上の快感を覚える……」
ミズサイコな発言だったが、それをあっけなく実現してしまえる力を持ってるだけに、ボクの恐怖は止まらない。ずるずると引きずられ、どんどん化物の方に引っ張られていっているよ。
目の前で、熱血、クール、寡黙の順に、次々と「魔神」に取り込まれていく。そして、次の瞬間には、その巨体のどこかしらに、グロテスクな質感をもって生えてきているよ。はや。
く、喰われる。最後に残ったボクの身体のあちこちも既に拘束が済んでおり、もはや宙に浮かばせられた状態だ。無駄に滑らかに体が引き寄せられていく……っ!!
こんな、ワケの分からない世界で、ワケの分からないまま、死ぬのか。
まだボク若いのに……異世界だったらおっさんになるまで生きたかったよ。そして追放されるまで生きたかった。
ボクの脳裏を滅裂な思考が埋め尽くしていく。走馬燈のようで、そうでない。そして、
ボクが最後に思うこと、それは最近の時流のことでは無かった。時流を深く愛していたし、尊敬もしていたが、ふと沸き上がった想念に、壮年の云々は吹っ飛んでいた。
女の子と、付き合ったことも無いのに……ッ!!
死を前にして思うこと、それは性だった。いまわの際まで健康体だったら、しょうがないことだよね……
眼前に迫るのは、「魔神」と呼ばれるほどの力を有しながら、妖艶かつ美麗な女性の外見をも有している物体。そうか、じゃあもうそれを女性と認識してしまえばいいんじゃないか?
これで最後なら、滾り切った思春期のエネルギーを蒼天に届くくらいまで装填し、果ててやる。
【ふおおおおおおおっ!!】
腹からの、魂の叫びは、実際にボクの声帯を震わせると、奇跡を起こすのであった。
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