夏の夜にはバニラアイス

10/12
前へ
/12ページ
次へ
「……」 彼女はうなだれたまま黙っている。やがて、本当に小さな声でぽつりと言った。 「タナベくん」 ミユキは一瞬反応ができなかった。タナベ。今、委員長はタナベと言ったのか? 「えっ?タナベってあの田邊?」 同じクラスのあの田邊のことか。 いやひょっとしたら他のクラスにもタナベという名前の人がいるのかもしれない。 同学年じゃなくて、先輩にタナベという名前の人がいるのかもしれないし。 しかし、北原チサトはミユキの予想と反して、頬を赤くしたままこくりとうなづいた。 「そう。田邊くん。田邊ヨシオ君」 これで決定的となった。田邊ヨシオ。 ミユキと委員長と同じクラスの男子。けれど……。 「えーなんで田邊?」 思わず大きな声が出た。 「田邊って……、もっと他にかっこいい男子、クラスにいるでしょう?」 田邊ヨシオははっきり言って女子に人気のあるタイプではない。 低身長で体型は小太りどころが大きく太っている。そしてメガネ。 性格だっておとなしくて内向的。女子と話している姿なんてほぼ見ない。 委員長は美人だし、頭もいい。 友達は多くないが、こういう美人はきっと男子に人気がある。 そんな委員長が、なんでよりにもよって田邊なのだ。 けれど北原チサトは首を横に振った。 「男は顔じゃないもの」 「田邊は体型だって太ってるし」 「太っててもやせてても関係ないわ」 「背だって低いし」 「背の高さも関係ない」 「そんな成績のいいタイプでもないよ。委員長みたいに頭よくないよ!きっと」 田邊の成績は知らないが、田邊は頭がいいなんて話聞いたこともない。 けれど北原チサトはこれにも首を横に振った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加