0人が本棚に入れています
本棚に追加
むくりと起きると寝ぼけ眼を手で擦りながら、僕は御簾を上げて仕事場へと向かう。
ひんやりとした真夜中に彷徨う。
怪しい奴にみえるだろうと僕はくすりと笑った。
仕事場の御簾に手をかけて中に入る。
文机を前にしておいてあった硯に墨を入れ、馴染ませ筆を浸す。
札にすらすらと書いているとドタドタと廊下を歩く音がした。
同僚がやってきたのだ。
「お前、早いな」
「今、来たところだよ」
「今日の星はどうだ?」
「お前も読めるだろう?」
「まぁ、この職だからな。読めないと働けないって」
「それでどうなんだ?」
「明日も主上は厄介だってことだ」
「それは見なくてもわかるだろう。はぁ、早く仕事しろよ。我らが上司が文句たらたらいいながら、祀りのことを聞いてくるぞ。上がよからぬことをかんがえているからだろう」
同僚が溜息をつく。
御簾の傍から動こうとしない同僚に呆れて目の前の札に印す。
「真夜中、札を書いて楽しいか?」
「楽しいね。表に出ずにするからな」
「お前、祀り事だと逃げるからなぁ。上手いのに」
手を動かしながら、答える。
そろそろ集中せねばと思い、書き続ける。
沈黙が降り落ちる。
同僚は知っているので黙ってこちらを見ているだろう。
夜で涼しいはずが、集中しているせいか。
汗が噴き出るのを肌で感じた。
ふうっと書き終えると外は少し明るくなっていた。
「終わったか?」
「ああ、終わった。お前は?」
「終わったよ。これからどうする?寝なおすか?」
「…仕事だろう。お前は寝るといい」
「真夜中一緒にいた仲だろう?付き合ってくれると嬉しいな」
何食わぬ顔で同僚がにやりと笑う。
はぁと溜息をつき、同僚に投げつけた。
「お前は馬鹿か」
険しい顔になったであろうことはわかったが、同僚の戯言に付き合うつもりはない。
スッと文机から離れ、御簾を上げ外に出た。
空には星々が光輝いていた。
それに比例するように心は溜息の雨が降った。
最初のコメントを投稿しよう!