尚、後悔は一切無い模様。

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 二階北側にある、六帖の洋室。それが梓に与えられた部屋だ。  置いてあるのは、机、本棚、簞笥にベッド、オーディオ、ついでに小さなテレビとゲーム機。十四歳の女の子の部屋としては、特色の無い、普通の部屋だ。  この部屋には窓が二つある。北側の大きな腰高窓、東側にある小さな外開き窓。外開き窓は、取っ手を捻れば、二十センチだけ開いて止まる。それ以上開かない造りになっているらしい。――母曰く、「落下防止じゃないの?」。  父が購入したこの家は、以前は別の家族が住んでいた。「――中古物件かぁ」と母はぼやきながら、その家族に認知症を患ったおばあちゃんがいたらしいと教えてくれた。  「防音室なのも、そのせいかしら。まあ、梓には丁度いいわよね」  今度はにこにこ笑って母は言った。  しかし、痴呆の進んだ老人を二階に住まわすだろうか。階段で転倒する事だってあるだろうし、家族の目が届きにくいだろうに。  そんな梓の疑問に、また母は不機嫌な顔に戻って、「そんな事知らないわよ」と切り捨てた。  すでにこの家は自分達家族の物で、前の住民は所詮他人、という事だろう。母はいつだって、見える物は都合良く見て、見えない物には興味も示さない人だ。  とはいえ、外開き窓が全開にできても意味は無いだろう。この辺の住宅は、隣の家との間隔が狭い。梓の家もそうで、外開き窓のすぐ目の前は隣家の壁だ。梓が手を伸ばせるならば、あっさり触れられるだろう距離に、隣家は建っている。おかげ外開き窓の向こうは、昼でも薄暗く影が凝っていた。  梓の部屋そのものは特筆するところもないが・・・この外開き窓だけは普通と違うところがあった。  深夜二時になると、この窓に毎晩誰か、訪ねてくるのだ。ソレらは普通とはかけ離れた者達だった。
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