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―――かちこち、かちこち。
夜中の時計の音というのは、昼間のそれより響いて聞こえる。――かちこち、かちこち。
梓は時計の針があと数分で二時を指すのを見て、読んでいた漫画をベッドの脇に寄せた。ベッドの位置から見える腰高窓は、向かいの家の屋根と夜空が見える。
こんな時間まで起きている事を、最後に母に叱られたのはいつだったか。
いや、どうだっていい事だ。いつ何時起きていようとも、梓の日常は変わらない。
―――かちこち、かちこち。
―――ほとほと、ほとほと。
時計が二時を指すと同時に、東側にある外開き窓の方から音がした。硬い物を力なく叩くような、頼り無い音。
―――ほとほと、ほとほと。
梓はベッドから立ち上がると、外開き窓の前まで来る。普段から暗い窓の向こうは、今は黒一色だ。夜の暗さではない。ただ“黒”い。
まるで色画用紙をぺったりと貼り付けたような黒さだった。
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