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目覚めない君へ
毎晩毎晩、僕は君に逢いに行く。
〇
パパの目を盗み、こっそりと部屋を抜け出す。足音を立てないように、声を出さないように、細心の注意を払って。そうして僕は君の部屋に辿り着く。
そっとドアを開けると、君はいつもと同じように横たわっていた。カプセルのようなものの中に入っていて、たくさんの管が繋がれている。開いているところを見たことのない君の閉じられた目が、全く動くこともなく瞼越しに天井を見上げている。
今夜も僕は君に話しかけた。
昼間パパと話したことや、最近街で流行っていること。君が頷くことはないけれど、こうして君に語り掛けることが僕の楽しみだった。
いつか、いつの日か。君の瞳に僕の姿が映ったら。君の口が僕の名前を呼んだら。君の手が僕の手を握ったら。そんな日が来たらどれだけ嬉しいだろうか。想像するだけで笑顔になってしまいそうだ。けれど、壁に掛けられた鏡に映る僕の顔は強張っていた。君の目に初めて映る時にはしっかり笑えているといいな。
本当はまだ君に会ってはいけないんだ。君が目覚めた時に会わせてあげるとパパは言っていた。だけど僕は君のことがとても気になってしまって、こうして真夜中に君の部屋を訪れるんだ。
パパにも秘密の、僕と君だけの時間。
僕は自分のうなじを撫でる。そろそろ僕も寝ないと。明日動けなくなってしまったら大変だもの。パパに迷惑は掛けられない。
おやすみ。
僕は君の部屋を後にした。
廊下には月明かりが差し込んでいる。この美しい夜空を君と一緒に見ることができたらな。
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