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立派な研究者の息子の体は病魔に侵されていた。壊れてしまった部品を機械にしてしまえばよかったものを、パパはそれを拒んだ。そして、息子の体は壊れていった。
自室の窓から空を見上げる。星の光る綺麗な夜だ。
研究者仲間とパパは出かけており、帰ってくるのは明日の朝。それまで、家にいるのは僕と君。
あの夜から、僕は体の自由があまり利かなくなってきていた。万全な状態ではないのに、好奇心で君と接触を繰り返していたため無理がかかったのだろう。パパが僕に対して君に会うことを禁止していたのは、おそらく僕の体の状態が良くなかったからだ。万全の状態……。お互いが万全な状態で会って欲しいと、きっとそう思っていたに違いない。
君に会いに行けなくなってからも、僕は毎晩君を思った。
僕はうなじを撫でる。そろそろ休もう。
そう思って、目を閉じた時だった。けたたましい音が家の中に響き渡った。僕は飛び起きて、周囲を見回す。引っ掛かってしまったらしく後頭部の方でぶちぶちという抜ける音がして痛みが走ったけれど、構ってはいられない。この音は君の部屋からだ。
言うことを聞かない体を強引に動かして、僕は君の部屋へ向かった。カプセルの隣の装置が激しく震えながら音を出している。
――パパはね、コイツが目を覚ました時にすぐ抱きしめられるように、目覚めが近付くと大きな音で知らせるようにしたんだよ。
君が目を覚ますのだろうか。僕はカプセルを見下ろす。
しかし君は全く動かない。装置が激しく震え、カプセルが軋むような音を立てる。まるで、泣いているように。
「……ぁ、ああ」
違う。これは……。
もう二度と目を覚まさなくなりそうな時にも、すぐに抱きしめられるようにした。とパパは言っていた。泣き叫ぶ装置を見て、僕はそれを悟った。君はこのまま目覚めないのだろうか。
窓のないこの部屋からは外の様子は分からない。しかし、まだ夜は終わらない。それは確かだった。朝、パパが帰ってくるまで君はここにいるのだろうか。
人工知能は従来のロボットやアンドロイドとは違う。自分で考え自分で行動する。
僕はカプセルを叩き割り、管に繋がれた君の体を抱きしめた。
「パパに必要なのは君だ」
もしもの時のためにパパから教えられていたこと……。
僕は、自分の胸に手を突き刺した。
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