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それはまぁ、そのとおりなんだけど。
「なんつ~かな~。こんな状況で、うまくわたせるんかな~?」
一日遅れて来た、綾のラインのメッセージは、「ごめんね」って言う吹き出し入りのウサギのスタンプ一個。
これは……返事しづらいだろ……?
じっさい、その効果をねらっているのかもしれない。
家の書斎で。ノートパソコンでネット検索していると、綾の顔が出てきた。
最近、ネットショッピングのサイトでも、ファッションモデルをしているとはきいてはいた。にしても、こんな、かんたんに出てくるものだったとは。
髪の毛をウエーブさせて、部分的に編み込んで。画面に向かって、上目づかいでほほえんでいる。
キラキラだな……。
「あたしアホっ子だから。なんの取り柄もないもん」なんて言っていたころとは、まるで別人だ。
「……はぁ~」
前髪を手のひらでかきあげて、オレはつくえの前につっぷした。
「なんなんだ、この、置いてかれ感……」
天井からゆかまでうめる本だなには、英文書がならんでいる。
文化人類学者で、妖精学者だったとうさんが、生前に読んだり、書いたりしていた本たち。
小六の秋、綾とふたりでこの部屋に入り込んでから、オレたちはここでたくさんの秘密を共有した。
ほかのクラスメイトたちには、わかりっこない。
ふたりだけの、たくさんのナイショ。
今でもここは、自分の部屋より落ちつく。
だけど、カーテンを敷いている窓際のゆりイスに、最後に綾が座ったのは、いつだったか?
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