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 自分の背よりも高い冷蔵庫をかたむけて、男ふたりがかりで、家の廊下へ押していく。  なんとか玄関の段差をクリアして、トラックにつみ込むと、すぐに引き返して、今度はたんすの運び出し。  4トントラックに家具がいっぱいになったころには、足も腰もガクガクになっていた。  それでもすぐに、助手席にとび乗り、運転席に座った木村さんとともに、新居に向かう。  引っ越し屋でバイトをはじめてから、二週間がすぎた。  とは言っても、平日は毎日部活だから、働けるのは土曜の夕方からと、日曜と祝日。  まるで、自分で自分の首をしめているようだ。  なお、綾に会えない……。 「今の加藤様は、夫婦別居だな」  オレと同じ、青い帽子に青いシャツの作業着姿の木村さんが、片手でトラックのハンドルをにぎりながら、つぶやいた。 「……え?」 「気づかなかったか? 父親分の家具だけ、運び出さなかったろ? それは別便で行くから置いとけって指示だよ。内情はこっちはきけないけどな。だいたいわかる」 「……はぁ」  あんまり実感がわかなかった。オレたちに荷物の指示をしてくれた若い母親は、二、三歳の息子と笑いながら、掃除をしていた。 「人生は、つねにのぼり調子じゃないからな。くだっていくときの引っ越しもたくさんある。午後の仕事は、『ひとり暮らしのおじいさんが亡くなったから、家具を運び出したい』ってはっきり言われたよ」  木村さんは、無精ひげをはやした口元に、かわいた笑みをうかべた。 「だれも、人生くだることなんて求めてないんだけどな。最初は、うまくいくことだけ、考えていたはずなのにな」 「……はい」  オレは、自分の手の甲に目を落とした。  気づかずに、ずっと綾の夢をなぞってきた。  けど、あのとき、綾はどれだけ本気で、夢を語ったのだろうか?  今もまだ、中学のころの夢を、かわらず見続けているのだろうか?  ……オレは……?
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